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NHK、自主自律の正念場 相沢冬樹・元NHK記者が語る

NHK、自主自律の正念場 相沢冬樹・元NHK記者が語る

東京新聞2020年3月14日 朝刊

 NHKの自主自律が再び取り沙汰されている。森下俊三経営委員長が委員長代行だった二〇一八年十月、番組内容に批判的な意見を述べていた。この問題に、森友学園問題のスクープ記事を巡り上層部から「圧力」をかけられ、三十一年勤めたNHKを飛び出した相沢冬樹記者(57)=現大阪日日新聞=は「上が腐れば下も腐る」と指弾し、政権と公平に対峙(たいじ)できない局の現状に「放送法を変えなければいけない」と語る。 (原田晋也)

 「過去の番組にあくまで感想を述べたレベル。干渉はしていない」。森下氏は十日、自身の発言について記者団にこう説明した。

 問題となったのは、かんぽ生命の不正販売問題を報じた番組を巡り、日本郵政グループ側から抗議を受けた経営委が上田良一前会長を厳重注意した日の会合。森下氏は上田氏の面前で番組に批判的な意見を述べたとされる。

 森下氏は「非公表を前提に自由な意見交換を行った」として、自身の発言について詳細なコメントを避けているが、放送法が禁じた「経営委による個別番組への干渉」に当たる可能性が指摘されている。

◆首相が任命規定

 「安倍(晋三)首相が言っていることみたい。言葉遊びですよ。それを干渉というんです」。相沢記者は森下氏の説明をそう切って捨てた。「上下関係がある場合、上が感想を言ったら、下が『言うこと聞かなきゃ』と受け止めるのは普通の組織だったら当たり前。サラリーマンなら全員分かることです」

 相沢記者は「(経営委が)正しく機能していれば外部の圧力をはねつけることができたのに、その決まりをいともたやすく無視してしまった」と指摘。「安倍政権がやっていることとすごく似ている」と批判する。

 「明確な決まり事があるのに詭弁(きべん)を弄(ろう)していろいろなことを変え、それが通用してしまう。森友・加計問題以来、それがずっと繰り返されている。首相が内閣でそういうことをしているのだから、(首相が選ぶ)経営委も当然そうなる。これで通用するんだ、と。これはNHKという組織の枠を超えて一国の問題だ」

 放送法は、経営委員の人事について「両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する」と規定している。相沢記者によると、経営委は長年名誉職的な存在で、NHK在職の三十一年間、会長の意向や発言は意識しても、経営委については一度も意識したことがなかったという。ところが近年、首相が任命した大企業の元トップの委員が委員長になり、積極的に発信する例が目立つようになってきた。

 相沢記者は、この問題が最も象徴的に出たのが、一連の会長への厳重注意問題だったとみる。「経営委は思いっきり郵政側に寄った。郵政は電波行政を牛耳る総務省につながる。ここを切り離さないとNHKは自立できない。悪い前例ができた以上、放送法を変え、委員の選び方を変えなければ」

◆現場には志ある

 今のNHKの報道の在り方については複雑な思いを明かした。「NHKに厳しい意見は多いが、全部NHKの責任にされても、という気持ちもある。予算は国会承認が必要だし、人事は内閣に握られている。それでどう政治的中立を保てと? できないでしょう」

 一方で「現場には志を持ってやっている人が大勢いる。それでもおかしな報道が出るのは上からの指示。忖度(そんたく)もある。いくら現場がいいものを出しても、全部かき消される」と、上層部への憤りを隠さない。

 その上で問い掛ける。「制度上の問題があるし、人間の性(さが)だから仕方ないが、『そんなにわが身が大事か』と言いたい。気骨を見せてくれよ、と思う」

<NHK経営委員会> NHKの「最高意思決定機関」で、会長の任免権を持つ。会長ら執行部が番組制作や編集に責任を持つのに対し、経営委は経営の基本方針を決めたり資金の使い方をチェックしたりする。学識経験者や企業経営者などから選ばれた12人の委員で構成され、委員長は互選で決められる。委員の任期は3年。

<あいざわ・ふゆき> 1987年NHK入局。主に社会部記者として活躍。大阪司法担当キャップとして2017年に発覚した森友学園問題を取材し、財務省が学園側に虚偽の口裏合わせを求めていたことなどをスクープ。18年6月に記者職を外されたため、退局して大阪日日新聞に移籍。現在、編集局長兼記者。同年12月には、政権に不都合なスクープを抑えようとするNHK上層部とのせめぎ合いを描いたノンフィクション「安倍官邸vs.NHK」を出版した。NHKは「虚偽の記述がみられる」と反論したが、具体的にどの部分が該当するか明らかにしていない。

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